膵臓がんのリスクについて(これまでの研究とJACC study)

 Overview of the epidemiology of pancreatic cancer focusing on the JACC Study.


 Qiu D, Kurosawa M, Lin Y, Inaba Y, Matsuda T, Kikuchi S, Yagyu K, Motohashi Y, Tamakoshi A, for the JACC Study Group.


 J Epidemiol 2005; 15 Suppl 2: S157-167.


 膵臓がんは致命率の高いがんです。膵臓がんのリスク因子について、2004年までに行われた研究と日本人11万人を対象者したJACC Studyの結果をレビューしました。

 今回レビューしたのはpancreatic cancer、risk factor及びepidemiologic studyのキーワードを用いて医学文献データベースで1994年以降2004年までを検索した文献と、JACC Studyに関する3つの論文です。


「膵臓がんは増加傾向」

 過去40年間に日本の膵臓がんの罹患率・死亡率はともに増加していました。2004年の男の膵臓がん死亡率はがん死亡の中で5位、女性は6位でした。12年間追跡したJACC Studyの男性46,465名及び女性64,327名の膵臓がん死亡は男性161人、女性156人でした。標準化死亡比は日本全国と比べ、男0.84、女0.97で男性が少し低いという結果でした。死亡率は加齢とともに増加し、60歳以上の死亡は約8割で、これまでの研究と同様の結果でした。


「既往歴と膵臓がん」

 これまでの研究結果によると糖尿病と膵がんに関連があることは間違いないようですが、糖尿病が膵がんのリスク因子であるか、それとも膵臓がんの合併症であるか一致した結果が得られていません。JACC Studyでは、糖尿病既往のある男性の膵臓がん死亡リスクは2.2倍高いという結果でした。同じく、胆のう炎・胆石既往は女性の膵臓がんリスクを2.5倍高くしていました。


「多くの疫学研究で喫煙は膵臓がんのリスク」

 多くの疫学研究で喫煙と膵がんの関連については一貫した結果が認められ、明らかに喫煙は膵臓がんのリスクを高くしていました。JACC Studyの結果によると喫煙者は非喫煙者に比べ、膵臓がんの死亡リスクが男性1.6倍、女性1.7倍上昇していました。さらに、1日40本以上タバコを吸う男性は吸わない人に比べ膵臓がん死亡リスクが3.3倍高くなっていました。


「膵臓がんのリスク因子」

 これまでの研究では、膵臓がんは慢性膵炎や遺伝性膵炎の人に多いということが認められており、アレルギー疾患やアスピリン使用の影響は明らかではありません。また、膵がんの家族歴、特に一親等の家族歴がある人のリスクは1.2~32.0倍であると指摘されています。JACC Studyではこれらの要因についての検討はまだできていません。今後これらについて、日本人を対象とした研究が必要でしょう。


 飲酒と膵臓がんとの関連はJACC Studyでは認められませんでした。これまでの研究では膵臓がんとコーヒーとの関連はないとする報告が多く、JACC Studyにおいても同様な結果でしたが、飲まない人に比べ1日4杯以上飲む男性の膵臓がんリスクは3.2倍高いという結果が認められました。食事・栄養摂取については、高コレステロール・高脂肪食、加工肉食が膵臓がんのリスクを高め、野菜の摂取が予防的であることがいくつかの研究で指摘されていましたが、結果が一致しない研究報告もあります。先行研究では肥満者の膵臓がんリスクが高く、運動は膵臓がんのリスクを低くするという結果もありました。

 家族歴、女性ホルモン、食事・栄養摂取、肥満及び運動と膵臓がんとの関連については今後さらに詳細な研究が必要でしょう。